一人親方とは?個人事業主とは何が違うの?
一人親方と個人事業主の違い
主に建設業において、従業員を雇わずに事業を営む人を一人親方と言いますが、個人事業主とは何が違うのでしょうか。どちらもほぼ似たようなものなので、どこが違うのかを細かく理解する必要があります。今回は、個人事業主と一人親方の違いについて解説していきます。
一人親方と個人事業主の定義は?
【一人親方】
厚生労働省によると、「一人親方」の定義は以下のとおりです。
「労働者を使用しないで、特定の事業を常態的におこなう」
特定の事業とは、建設業・林業・水産業などの合計7業種が指定されています。
参考:厚生労働省「特別加入制度のしおり」
【個人事業主】
「個人事業主」とは、税務署に個人で事業をおこなっていると、申告している人のことを指します。よく似ていますが、「自営業」は家族経営の法人なども含むのに対して、「個人事業主」はあくまでも個人で仕事をしている人に限られます。 一人親方も、個人事業主の一つです。
会社を辞めて独立しているにもかかわらず、開業届を未提出の一人親方もいますが、その場合、社会的には一人親方とみなされません。また、開業届を未提出の場合には、税金やお金の管理の面で多くのデメリットがあるので、開業届を提出するようにしましょう。
一人親方と個人事業主の違いを細かく見ていこう
一人親方は個人事業主の一つであることが分かりました。それでは、個人事業主の中でどのよう条件であれば、一人親方と分類されるのでしょうか。4つに分けてみていきましょう。
【業種】
個人事業主の場合は、個人で事業を行い収入があれば業種は問いませんが、一人親方の場合は業種が限られます。その業種とは、
・個人タクシー業者や個人貨物運送業者など
・大工、左官、とび職人などの建設事業者
・漁業(水産動植物の採捕)
・林業
・医薬品の配置販売
・再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別
・船員が行う事業
になります。建設業が代表的なイメージがありますが、7つの業種が存在します。
【働き方】
上記の7業種に含まれていても働き方によっては一人親方とみなされない場合があります。中でも一番多いのが、雇用契約を解消し、個人で仕事を請け負っているのですが実質的に請負元の管理監督下にあるために雇用者とみなされるケースです。
【雇用】
従業員を雇用しているか否かも、一人親方と個人事業主を区別するうえで、明確に異なるポイントです。一人親方は、文字通り一人で働きます。厳密にいえば、一人親方として認められるには、雇用日数が年間で延べ99日以下でなくてはなりません。一方で、個人事業主の場合は、特に従業員を雇用することについての制約はありません。必要に応じて、人を雇用できます。
【権利】
一人親方は個人事業主とは異なり、特別に認められた権利があります。その代表的なものが、「一人親方労災保険」への特別加入です。労災保険は、本来は会社や団体に雇用されている人しか加入できない、業務中や通勤中のケガや病気に対して補償を受けられる制度です。一人親方は、ケガのリスクが他の業種より高いこともあり、特別に労災保険への加入が認められています。ただし、一人親方労災保険に加入するためには、一人親方労災団体を通じて申し込みをしなくてはなりません。
また、上述のように一人親方といいながら、実質的に雇用関係のような状況の場合は、雇用元(請負元)に社会保険や労災保険などに加入できるよう、対応してもらわなくてはなりません。
一人親方と法人との違い
一人親方と法人の違いに関しても紹介しましょう。事業が順調に伸びていった場合に、法人化する一人親方もいるので、違いを確認していきましょう。
【税金(消費税・法人税)】
法人の場合は、個人事業主と税金の面で大きな違いがあります。
・法人税(法人税+法人住民税+法人事業税+地方法人特別税)
個人事業主の場合は、売上から必要経費をマイナスした分(=所得)に対して所得税が課せられるのに対し、法人の場合は、個人の所得税の代わりに法人税がかかります。所得税と法人税のどちらがお得なのかは複雑な計算を必要としますが、簡単に説明をすると、収入が一定を超えると法人化した方が、税負担の分でメリットがあります。
・消費税
個人事業主も法人も、売上が1,000万円を超えたときに、消費税が発生する点では同じです。ただし、個人事業主として開業後2年間・法人化後2年間は、それぞれ消費税が免除されます。
【社会保険(厚生年金・健康保険)・雇用保険・労災保険】
法人の場合は、一定の条件下において、厚生年金や労災保険への加入義務が設定されています。
・社会保険(厚生年金・健康保険)
全ての法人は、社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する義務があります。
保険料が労使折半になるため、毎月のコスト要因になることも、把握しておかなくてはなりません。
個人事業主の場合は、5名以上の従業員を雇用している場合にのみ、加入義務が発生します。
一人親方は、従業員を雇用しない働き方なので、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入義務はありません。
・労災保険と雇用保険
法人の場合、一人でも従業員を雇ったら、労災保険と雇用保険への加入義務があります。
義務に反してこれらの保険に加入せず、行政指導を受けてもなお未加入の場合、追徴金を支払うことになります。一人親方は、一人親方労災団体を通じて労災保険に加入可能です。会社員の場合は、前年度の所得から、毎月の保険料が自動的に決定します。しかし、一人親方労災保険は自己申告で、給付基礎日額を設定します。
・給付基礎日額
労災保険における補償のベースとなる金額です。給付基礎日額は、3,500円~25,000円まで16段階で設定されています。
【給付金】
大きな災害が生じた際や、政策に関連する事業に対して、給付金や助成金が出されることもあります。このとき、法人と個人事業とで、それぞれ扱いが異なるケースもあります。例えば、新型コロナウイルス感染症拡大のなか出された、「持続化給付金」の最大給付額は以下のとおりです。
中小企業・・・最大200万円
個人事業主・・・最大100万円
このように、法人か個人事業主かによって、受けられる給付金の種類や内容が異なる可能性があります。
一人親方とフリーランスの違い?
番外編として、フリーランスとの違いも解説します。まずは、上記で説明した7業種であるかどうかです。また、一人親方労災保険に加入できるか否かでも分かります。一人親方は特別加入することが出来ますが、フリーランスの場合は加入することが出来ません。
その他、税金関係でも微妙な違いはあるものの、上記の2点で判断するのが一番分かりやすいでしょう。フリーランスの一つに含まれる一人親方ですが、違いをしっかりと押さえておきましょう。
まとめ
以上、一人親方と個人事業主の違いについて紹介しました。建設業を営む個人事業主のことを一人親方と誤認する(厳密には間違っていませんが)ことが多いため、建設業以外にも一人親方に含まれる業種があることを知ってもらえるといいです。
また、個人事業主と一人親方では、税金面や保険などで異なる条件が発生するので、自分はどちらなのか、どちらを目指すのかをしっかりと意識して理解しておきましょう。
特に一人親方労災保険特別加入制度に加入できるのは一人親方であることの大きなメリットとなるので、検討してみて下さい。